大豆と糖質の少ない野菜・果物を多く摂取する

◇ 大豆と糖質の少ない野菜・果物を多く摂取する

【大豆は抗がん作用をもつ成分の宝庫】

豆類はマメ科植物の種子として、植物が成長するために必要な栄養素を蓄えているため、極めて栄養豊富な食料です。また、昆虫や鳥や動物から食い荒らされないように、渋みや苦みの成分や、毒作用をもった成分も含有しており、このような成分は抗菌・抗がん作用を有する場合もあります。したがって、栄養成分としてだけでなく、感染予防や、がん細胞の増殖抑制やがん予防効果も期待できます。しかし、豆類の多くは糖質も多いので、がんのケトン食療法では摂取量が制限されます。
豆類の中で糖質が比較的少なく、抗がん作用をもつ成分を多く含むのが大豆です。他の豆類は、糖質を40〜50%、蛋白質は20〜25%程度であるのに対して、大豆は糖質11%、蛋白質35%と低糖質・高蛋白が特徴です。豆腐や納豆など大豆製食品は糖質制限食でも十分に利用できます。
大豆は昔から良質なたんぱく源として知られ、健康増進やがん予防に有効な様々な有効成分を含むことでも知られています。豆腐や納豆など大豆製品を豊富に摂取する人たちには、がんの発生が少ないことが疫学的に証明されています。大豆に多く含まれる「イソフラボン」という成分は、女性ホルモンの作用に影響して、乳がんや前立腺がんを防ぐ効果が報告されています。さらに、がん細胞に養分を与える腫瘍血管が育たないようにしてがん細胞の増殖を抑える働きや抗酸化作用も知られており、多くのがんの再発予防にも効果が期待できます。大豆は日本人の長寿を支える伝統食であり、調理法も多彩ですので、がんのケトン食療法でも、利用価値の高い食材です。

食 品 名
炭水化物
蛋白質
脂 質
エネルギー
(kcal)
糖 質
食物繊維
いんげん豆・全粒 – 乾
38.5
19.3
19.9
2.2
333.0
えんどう豆・全粒 – 乾
43.0
17.4
21.7
2.3
352.0
そら豆・全粒 – 乾
46.6
9.3
26.0
2.0
348.0
大豆 – 乾
11.1
17.1
35.3
19.0
417.0
きな粉・全粒大豆
14.1
16.9
35.5
23.4
437.0
木綿豆腐
1.2
0.4
6.6
4.2
72.0
絹ごし豆腐
1.7
0.3
4.9
3.0
56.0
焼き豆腐
0.5
0.5
7.8
5.7
88.0
生揚げ
0.2
0.7
10.7
11.3
150.0
油揚げ
1.4
1.1
18.6
33.1
386.0
がんもどき
0.2
1.4
15.3
17.8
228.0
凍り豆腐
3.9
1.8
49.4
33.2
529.0
糸引き納豆
5.4
6.7
16.5
10.0
200.0
挽きわり納豆
4.6
5.9
16.6
10.0
194.0
おから・旧来製法
0.0
9.7
4.8
3.6
89.0
おから・新製法
2.3
11.5
6.1
3.6
111.0
豆乳
2.9
0.2
3.6
2.0
46.0
湯葉 – 生
3.3
0.8
21.8
13.7
231.0

表:豆類および大豆製食品の100g中の糖質、食物繊維、蛋白質、脂質の含有量とエネルギー量を示す。(五訂日本食品標準成分表より作成)

大豆摂取量が多いほど胃がん死のリスクが低いことが、岐阜県高山市の35歳以上の住民約3万人を対象にした追跡調査で明らかになっています。この研究では1992年に食品の摂取状況を調べ、その後7年間の死亡者数と死因を調査しています。分析の結果、男女とも大豆をよく食べる人は、あまり食べない人に比べて、胃がんで死亡するリスクが約半分に低下していました。
大豆製品の摂取量が多いとがん治療後の予後(生存期間)が良好であることも報告されています。例えば、877症例の胃がんの手術後の生存率と食生活の関連を検討した愛知がんセンターからの報告によると、豆腐を週に3回以上食べていると、再発などによるがん死の危険率が0.65に減ることが報告されています。ちなみに、生野菜を週3回以上摂取している場合の危険率は0.74に、喫煙していると2.53になることが報告されています。
大豆による乳がんや前立腺がんの予防効果に対しては、イソフラボンのフィト・エストロゲン活性も重要ですが、大豆の抗腫瘍効果の理由はその他にもあります。大豆イソフラボンのゲニステインには、がん細胞の増殖を促進するチロシンキナーゼと呼ばれる酵素の働きを阻害してがん細胞をおとなしくしたり、アポトーシスという細胞死を促進する作用も知られています。がん組織が大きくなるためには、回りに毛細血管をはりめぐらして酸素や栄養成分を吸収しなければなりませんが、ゲニステインにはこの毛細血管の増殖を防ぐ血管新生阻害作用も報告されています。 さらに、イソフラボンには抗酸化作用もあり、活性酸素やフリーラジカルの害を取り除いて、がんの予防や再発予防に貢献できるのです
前立腺がんを自然に発病するように遺伝子を改変したマウス(トランスジェニック・マウス)にゲニステインを投与すると、がんの悪性度の進行が抑えられることが報告されています。アジア人には悪性度の高い前立腺がんが少ないことが知られていますが、その理由として大豆製品を多く摂取していることを示唆する研究結果です。
大豆にはイソフラボン以外にも、フィチン酸、プロテアーゼインヒビター、サポニン、フィトステロール、などにもがん予防効果が報告されている成分が含まれており、これらの総合的な効果ががんの予防や治療に役立っているようです。
フィト・エストロゲンにはがん予防効果以外にも、骨からカルシウムの溶出を抑え骨粗しょう症を予防したり、コレステロールを下げる効果や高血圧予防、アルツハイマー病(老年性痴呆)の予防や改善などの効果もあります。このような多彩な健康効果も加わって、大豆製品を多く食べることは、がん治療後の生存期間を延ばす効果が期待できます。

【糖質の多い野菜に注意】

野菜にはビタミンやミネラルのような体に必要な微量栄養素や、腸内環境を良くする食物繊維、抗酸化作用や免疫増強作用や解毒作用や発がん予防作用をもったフィトケミカルが豊富に含まれます。
フィトケミカル(phytochemical)の「フィト」は植物という意味で、「ケミカル」は化合物という意味で、フィトケミカルというのは植物中に存在する天然の化学物質のことです。体の機能に必須では無いのですが、健康に良い影響を与える植物由来の成分を意味する用語として使用されています。
ポリフェノール類(フラボノイド、カテキンなど)、カロテノイド(βカロテン、ルテインなど)、イソチオシアネート類(スルフォラファンなど)など数多くの成分が知られています。糖質・脂質・蛋白質・ビタミン・ミネラルの5大栄養素についで、食物繊維が第6の栄養素、フィトケミカルが第7の栄養素と言われています。
野菜を多く摂取することは、がんや心臓疾患を含め、多くの病気の予防に役立つと考えられています。また、肉などの動物性食品を多く摂取すると体液が酸性に傾くため、体内をアルカリ性にする上でも野菜を多く摂取することは必要です。特にケトン体は酸性度が強いため、尿が酸性になると結石ができやすくなるという問題もあります。そのため、血液や尿の酸性化を防ぐ意味でも野菜を多く摂取することは意味があります。
しかし、野菜にも種類によってかなり糖質が含まれているので注意が必要です。根菜類(地下部の茎や根を食用とする野菜)のニンジンやゴボウやレンコン、果菜類のカボチャ、茎菜類のタマネギ、イモ類(ジャガイモ、サツマイモなど)には糖質が多く含まれるので、摂取する場合は糖質の量を注意しておきます。特にイモ類は、コンニャクイモ以外は穀類と同じレベルの糖質が含まれるので、ケトン食療法では基本的にはイモ類およびその加工品は食べないようにします。コンニャクやシラタキはほとんど吸収されない食物繊維が主体なので、いくら食べても問題ありません。キノコ類も基本的に食物繊維が豊富で糖質は極めて少ないので、多く食べて問題ありません。
基本的に、100g当たり糖質が2g以下のものであれば、腹一杯食べても1回の食事の糖質が20グラムを超える心配がないので安心して食べられます。その基準に合うものとして、オクラ、キュウリ、こまつな、春菊、ザーサイ(漬け物)、ズッキーニ、セリ、セロリ、タケノコ、チンゲンサイ、なばな、ニガウリ(ゴーヤー)、ニラ、白菜、パセリ、ブロッロリー、ほうれんそう、ミョウガ、もやし、モロヘイヤ、レタス、キノコ類などがあります(表4)。ただし、これらも多量に食べれば糖質が増えますので、個々の糖質の量を計算に入れておきます。

分類

食 品 名

炭水化物

蛋白質

脂 質

エネルギー(kcal)

糖 質

食物繊維

イモ類 サツマイモ – 生
29.2
2.3
1.2
0.2
132.0
サトイモ – 生
10.8
2.3
1.5
0.1
58.0
ジャガイモ – 生
16.3
1.3
1.6
0.1
76.0
大和イモ – 生
24.6
2.5
4.5
0.2
123.0
自然薯– 生
24.7
2.0
2.8
0.7
121.0
根菜類 カブ – 根、皮むき – 生
3.4
1.4
0.6
0.1
21.0
ゴボウ – 生
9.7
5.7
1.8
0.1
65.0
ショウガ – 塊茎 – 生
4.5
2.1
0.9
0.3
30.0
ダイコン – 根、皮むき – 生
2.8
1.3
0.4
0.1
18.0
苦瓜(ゴーヤ)
1.3
2.6
1.0
0.1
17.0
ニンジン – 根、皮むき – 生
6.5
2.5
0.6
0.1
37.0
ユリ根 –生
22.9
5.4
3.8
0.1
125.0
ラッキョウ –生
8.3
21.0
1.4
0.2
118.0
レンコン –生
13.5
2.0
1.9
0.1
66.0
果菜類 オクラ –生
1.6
5.0
2.1
0.2
30.0
カボチャ –生
8.1
2.8
1.6
0.1
49.0
キュウリ -生
1.9
1.1
1.0
0.1
14.0
ズッキーニ –生
1.5
1.3
1.3
0.1
14.0
トウガン –生
2.5
1.3
0.5
0.1
16.0
トマト –生
3.7
1.0
0.7
0.1
19.0
ナス –生
2.9
2.2
1.1
0.1
22.0
ピーマン –青、生
2.8
2.3
0.9
0.2
22.0
花菜類 カリフラワー –生
2.3
2.9
3.0
0.1
27.0
なばな –生
1.6
4.2
4.4
0.2
33.0
フキノトウ –生
3.6
6.4
2.5
0.1
43.0
ブロッコリー –生
0.8
4.4
4.3
0.5
33.0
ミョウガ –生
0.5
2.1
0.9
0.1
12.0
茎菜類 アサツキ –生
2.3
3.3
4.2
0.3
33.0
アスパラガス –生
2.1
1.8
2.6
0.2
22.0
ウド –生
2.9
1.4
0.8
0.1
18.0
タケノコ –生
1.5
2.8
3.6
0.2
26.0
タマネギ –生
7.2
1.6
1.0
0.1
37.0
ニンニク –生
20.6
5.7
6.0
1.3
134.0
ネギ –生
5.0
2.2
0.5
0.1
28.0
ワケギ –生
4.6
2.8
1.6
0.0
30.0
葉菜類 キャベツ -生
3.4
1.8
1.3
0.2
23.0
こまつな –生
0.5
1.9
1.5
0.2
14.0
春菊 –生
0.7
3.2
2.3
0.3
22.0
セリ –生
0.8
2.5
2.0
0.1
17.0
セロリ –生
1.7
1.5
1.0
0.1
15.0
チンゲンサイ –生
0.8
1.2
0.6
0.1
9.0
ニラ –生
1.3
2.7
1.7
0.3
21.0
白菜 –生
1.9
1.3
0.8
0.1
14.0
パセリ –生
1.4
6.8
3.7
0.7
44.0
ほうれん草 –生
0.3
2.8
2.2
0.4
20.0
メキャベツ –生
4.4
5.5
5.7
0.1
50.0
モロヘイヤ –生
0.4
5.9
4.8
0.5
38.0
レタス –生
1.7
1.1
0.6
0.1
12.0
キノコ類 えのきたけ
3.7
3.9
2.7
0.2
22.0
キクラゲ –乾
13.7
57.4
7.9
2.1
167.0
しいたけ –生
1.4
3.5
3.0
0.4
18.0
したたけ –乾
22.4
41.0
19.3
3.7
182.0
なめこ –生
1.9
3.3
1.7
0.2
15.0
ぶなしめじ –生
1.3
3.7
2.7
0.6
18.0
マッシュルーム –生
0.1
2.0
2.9
0.3
11.0
まつたけ
3.5
4.7
2.0
0.6
23.0
その他 えだまめ
3.8
5.0
11.7
6.2
135.0
かんぴょう –乾
37.8
30.1
7.1
0.2
261.0
切り干し大根
46.8
20.7
5.8
0.5
279.0
ザーサイ –漬け物
0.0
4.6
2.5
0.1
23.0
さやいんげん –生
2.7
2.4
1.8
0.1
23.0
たかな漬け
1.8
5.2
2.8
0.2
33.0
はくさいキムチ
5.2
2.7
2.8
0.3
46.0
むかご
16.4
4.2
2.9
0.2
93.0
もやし –生
0
2.3
3.7
1.5
37.0

表:主な野菜の可食部100g中の糖質、食物繊維、蛋白質、脂質の含有量とエネルギー量を示す。イモ類や根菜類には糖質が多いものがあるので注意が必要。
(五訂日本食品標準成分表より作成)

【果物の果糖は体内でブドウ糖になる】

果物は糖質が多いので、基本的にはごく少量しか食べれません。果物に多く含まれる果糖(フルクトース)は、直接的には血糖を上げないためインスリンの分泌を刺激しないのですが、体内でブドウ糖に変換され、ブドウ糖と同じ代謝経路に組み込まれてエネルギー源となります。
多くの果物は100グラム当たり10〜20グラム程度の糖質を含みます。レモンやグレープフルーツでも100グラム当たり8〜10グラムの糖質を含みます。リンゴやブドウや梨は100グラム当たり10グラム以上の糖質を含み、バナナは100グラム当たり20グラム以上の糖質を含みます。がんに野菜や果物が良いという考えが普及していますが、糖質の多いものは避けることが大切です。その中で例外がアボカドで、100g当たりの糖質は1g以下で、食物繊維を5g以上含み、脂肪が15g以上で、オリーブオイルと同じオレイン酸が豊富で糖質制限食やケトン食に適した唯一の果物です(後述)。

食 品 名
炭水化物
蛋白質
脂 質
エネルギー
(kcal)
糖 質
食物繊維
あけび・果肉 – 生
20.9
1.1
0.5
0.1
82.0
アセロラ – 生
7.1
1.9
0.7
0.1
36.0
アボカド – 生
0.9
5.3
2.5
18.7
187.0
いちご – 生
7.1
1.4
0.9
0.1
34.0
いちじく- 生
12.4
1.9
0.6
0.1
54.0
温州みかん – 生
11.0
1.0
0.7
0.1
46.0
温州みかん・ストレートジュース
10.6
0.0
0.5
0.1
41.0
かき・甘柿 – 生
14.3
1.6
0.4
0.2
60.0
キウイフルーツ – 生
11.0
2.5
1.0
0.1
53.0
グレープフルーツ – 生
9.0
0.6
0.9
0.1
38.0
グレープフルーツ・ジュース
10.2
0.1
0.6
0.1
40.0
さくらんぼ – 生
14.0
1.2
1.0
0.2
60.0
ざくろ – 生
15.5
0.0
0.2
0.0
56.0
すいか – 生
9.2
0.3
0.6
0.1
37.0
ドリアン – 生
25.0
2.1
2.3
3.3
133.0
なし – 生
10.4
0.9
0.3
0.1
43.0
夏みかん – 生
8.8
1.2
0.9
0.1
40.0
パイナップル
11.9
1.5
0.6
0.1
51.0
バナナ – 生
21.4
1.1
1.1
0.2
86.0
パパイヤ・完熟 – 生
7.3
2.2
0.5
0.2
38.0
びわ – 生
9.0
1.6
0.3
0.1
40.0
ぶどう – 生
15.2
0.5
0.4
0.1
59.0
ブルーベリー – 生
9.6
3.3
0.5
0.1
49.0
マンゴー – 生
15.6
1.3
0.6
0.1
64.0
マンゴスチン – 生
16.1
1.4
0.6
0.2
67.0
メロン – 生
9.8
0.5
1.1
0.1
42.0
桃 – 生
8.9
1.3
0.6
0.1
40.0
ライチー – 生
14.5
0.9
1.0
0.1
63.0
タイム・果汁 – 生
9.1
0.2
0.4
0.1
27.0
ラズベリー – 生
5.5
4.7
1.1
0.1
41.0
りんご – 生
13.1
1.5
0.2
0.1
54.0
りんご・ストレートジュース
11.8
0.0
0.2
0.1
44.0
レモン・全果 – 生
7.6
4.9
0.9
0.7
54.0
レモン・果汁 – 生
8.6
0.0
0.4
0.2
26.0

表:主な野菜の可食部100g中の糖質、食物繊維、蛋白質、脂質の含有量とエネルギー量を示す。イモ類や根菜類には糖質が多いものがあるので注意が必要。 (五訂日本食品標準成分表より作成)

【アボカドは糖質が少なく脂肪が多い果物】

アボカド(Avocado)はクスノキ科の常緑果樹で、原産地は中央アメリカ(コロンビア、エクアドル)およびメキシコの湿潤地域ですが、現在では熱帯、亜熱帯、温帯性気候の地域の世界各国で栽培されています。
日本ではなじみの薄い果物でしたが、欧米風の料理が浸透し、さらにアボカドの高い栄養価や健康作用が注目されるようになって、日本でも食材としての利用が増えています。
アボカドには脂質が果肉可食部100g中に15g以上含まれ、脂質に含まれる脂肪酸の約65%はオレイン酸です。オレイン酸はオリーブオイルに多く含まれるn-9系の一価不飽和脂肪酸で、循環器疾患やがんの予防に効果がある脂肪酸です。さらに、多種類のカロテノイド(βカロテン、αカロテン、ルテイン、ゼアキサンチンなど)、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンEなどのビタミンや、カリウムやマグネシウムやリンなどのミネラル、食物繊維、蛋白質などが多く含まれています。
また、アボカドは糖質が極めて少なく、他の多くの果物が100g当たり10〜20g程度の糖質(食物繊維を省く炭水化物)を含むのに対して、アボカドは果肉可食部分100g中に含まれる糖質は1g以下です。
アボカドの健康作用が知られるにしたがい、消費量が増え、アボカドの健康作用に関する基礎研究も盛んになっています。がんの領域でも、アボカドのがん予防効果や抗がん作用に関する研究が行われています。他の果物や野菜には含まれずアボカドに特徴的な成分である脂肪族アセトゲニン(Aliphatic acetogenin)の抗がん作用に関する研究が幾つか報告されています。脂肪族アセトゲニンが、上皮成長因子(EGF)がその受容体(EGFR)に結合して活性化されるEGFR/RAS/RAF/MEK/ERK1/2というシグナル伝達系を阻害してがん細胞の増殖を阻害する作用が報告されています。(Biochem Biophys Res Commun. 409(3): 465-469. 2011)
EGFRを標的とした抗がん剤としてEGFRチロシンキナーゼ阻害剤(イレッサ、タルセバ)や抗EGFR抗体(アービタックスなど)が使用され、その有効性が報告されています。EGFR/RAS/RAF/MEK/ERK1/2シグナル伝達系は多くのがん細胞において活性化されているので、この経路を阻害する作用は抗がん作用が期待できます。
この脂肪族アセトゲニンが、細胞内での脂肪酸合成の律速酵素であるアセチルCoAカルボキシラーゼを強力に阻害するという報告もあります。Biosci Biotechnol Biochem 65(7): 1656-8, 2001)
がん細胞では脂肪酸合成が亢進しており、脂肪酸合成を阻害することはがん細胞の増殖を抑える効果があります。脂肪族アセトゲニンには抗炎症作用があり、紫外線による皮膚のダメージを防御する効果も報告されています。抗炎症作用はがんの予防や治療にも有用な作用です。
このような研究結果はまだ培養がん細胞を使った試験管内での実験ですので、アボカドを多く食べても実際に抗腫瘍効果が期待できるかは不明です。しかし、アボカドはビタミン・ミネラルなどの栄養素が豊富で、糖質が少なく、オレイン酸を主体とする脂肪が多いなど、他の野菜や果物とは異なる特徴を持っています。さらに、アボカドには多彩なカロテノイドが豊富で、しかも脂肪が多いので、脂溶性のカロテノイドの吸収が良いことが報告されています。食用になっている果物の中ではルテイン(Lutein)の含量が最も多いとされています。アボカドに含まれる70%がルテインと報告されています。ルテイン以外に、βカロテン、αカロテン、ゼアキサンチン(zeaxanthin)、ネオクローム(neochrome)、 ネオキサンチン(neoxanthin)、βクリプトキサンチン(beta-cryptoxanthin)、ヴィオラキサンチン(violaxanthin)など多種類のカロテノイドが含まれ、カロテノイドの種類の多さではアボカドが一番だと記載されています。さらにビタミンEや食物繊維やフラボノイド類も多く含まれます。
カロテノイドは脂溶性なので、脂肪の多いアボカドを食べると、カロテノイドの吸収が良くなることが知られています。他の野菜や果物のカロテノイドやビタミンEなどの脂溶性ビタミンの吸収も良くするので、サラダにアボカドを加えると他の野菜や果物に含まれるカロテノイドの吸収が2〜4倍に良くなると言われています。ちなみに、アボカドを輪切りにしたとき、果皮の直下は緑色が濃く、内部ほど薄い色になっています。緑色の濃い部分にカロテノイドが多く含まれるので、果皮直下の部分をロスしないように食べることが大切です。
アボカドは栄養価が高く、抗炎症作用や抗酸化作用や抗がん作用も期待でき、糖質が少ないので、末期がん患者の栄養補給にも最適な果物です。可食部100g当たりアボカドは187kcalあり、バナナの2倍以上で、生食の果物では最もカロリーが高くなっています。アボカド1個(250g)の果肉可食部が70%とするとアボカド1個(250g×0.7×1.87=327kcal)は327キロカロリーになり、ごはん1膳140g(235kcal)の約1.4倍のエネルギーになります。ごはん1杯やバナナ1本を食べるよりアボカド1個を食べる方が栄養補給にははるかに勝っています。がん患者さんの栄養補充の目的でも、アボカドはもっと利用されてよい食材と言えます。アボカドはカロリーの85%が脂肪に由来するので、がんの糖質制限食やケトン食には、クルミ、亜麻仁(フラックスシード)、オリーブオイルと並んで非常に有用な食材です。
(注意:ラテックス・アレルギーの人はアボカドでアレルギー反応が起こりますので、アボカドを食べて蕁麻疹や口唇の腫れなどの症状が出る人はアボカドを食べれません。バナナやキウイでアレルギーが起こる人はアボカドも食べれません。ラテックスとは、天然ゴムの原料でゴムの木から採取されます。ラテックスアレルギー(天然ゴムアレルギー)は、天然ゴムを原料とするゴム手袋など天然ゴム製品に繰り返し接触することでアナフィラキシーなど即時型アレルギー反応を起こすアレルギー疾患です。歯科医師や手術をする医師や看護士などに多く発症しています。医療処理を受ける際に繰り返しゴム手袋に接触する患者さんにも発症する場合があるようです。バナナ、アボカド、キウイなどの果物には、ラテックスと似た成分を含むため、ラテックス・アレルギーの人はこれらの果物でアレルギー反応を起こすので、ラテックス・フルーツアレルギー症候群と呼ばれています。症状は、口唇の腫れや口腔内の違和感、じんま疹やアレルギー性鼻炎、結膜炎などで、重症の場合はショックに陥ることもあります。)

【アブラナ科野菜は抗酸化力と解毒能を高めて抗がん力を高める】

アブラナ(油菜)は菜の花とも呼ばれ、3ー5月に黄色の十字架状の花が密集して咲く背丈が1ー2mの植物です。種には油が多く含まれ植物油の原料として栽培されていましたが、野菜としても食べられています。アブラナと同じ仲間(アブラナ科)で野菜として食用されているものに、キャベツ、ブロッコリー、ケール、カリフラワー、芽キャベツ、ダイコン、ハクサイ、カブ、コマツナ、チンゲンサイ、ワサビなどがあります。茎の上部にある葉の基部の葉肉が張り出して耳状になり、茎を抱くのが特徴です。アブラナ科野菜(キャベツ、ブロッコリー、ケールなど)の辛味成分であるイソチオシアン酸塩成分には体内の解毒酵素の働きや抗酸化力を高める効果が知られており、アブラナ科野菜をジュースや料理などに使って1日100グラム以上食べることはがんの再発予防や治療に効果が期待できます。
薬物や発がん物質などが体内に摂取されると,肝臓などの細胞内にある酵素の働きによって解毒されて体外に排泄されます。このような解毒酵素には大きくフェース1酵素群(phase 1 enzymes)とフェース2酵素群(phase 2 enzymes)に分類されています。フェース1酵素は物質を酸化したり加水分解して物質を変換し、フェース2酵素は抱合反応などによって解毒する作用をもっています。このような薬物代謝酵素は多くの場合薬物の作用の消失を導くことから、解毒反応と呼ばれていますが、フェース1酵素群は場合によっては、発がん物質の前駆体を活性化し、発がん性を持たせるように働くこともあります。
一方、グルタチオン・S・トランスフェラーゼ(glutathione S-transferases), キノン還元酵素(quinone reductases)などのフェース2酵素は、DNAの変異を起こす発がん物質を不活化する作用を持っています。アブラナ科の野菜に含まれる辛み成分のイソチオシアン酸塩にフェース2酵素の量を増やす作用が知られています。
ジョンズ・ホプキンス大学のポール・タラレー博士らは、ブロッコリーに含まれるスルフォラファン(Sulforaphane)というイソチオシアン酸塩成分がフェース2酵素の合成を誘導する効果が強く、がん予防に効果があることを1994年に発見しました。その後も多くの研究でアブラナ科野菜に含まれるイソチオシアン酸塩成分のがん予防効果が確認され、そのメカニズムの研究が行われています。
フェース2解毒酵素の遺伝子の発現調節領域には、抗酸化反応エレメント(antioxidant response element)という領域があって、Nrf2という転写因子が結合するとフェース2解毒酵素の発現が誘導されます。 イソチオシアネートなどのフェノール性抗酸化剤はmitogen-activated protein kinases (MAPK)を活性化して、転写因子のNrf2が細胞核内に蓄積し、遺伝子の抗酸化反応エレメントへの結合を促進して、抗酸化に働く種々の遺伝子の発現を誘導して酸化ストレスを軽減させる作用があります。さらに、イソチオシアネート類には、がん細胞に対してアポトーシス(プログラム細胞死)を誘導する作用も報告されています。
アブラナ科野菜はビタミンCやA、食物繊維、カルシウムなども豊富ですので、がん予防にはさらに効果が期待できます。以上のことから、アブラナ科野菜はがん細胞の増殖を抑え、抗がん力を高める作用を持つと言えます。
特に、ブロッコリーの新芽(スプラウト)はがん予防効果が高いことが報告されています。ジョンズ・ホプキンス大学のタラレー博士らは1997年、ブロッコリーやカリフラワーの新芽(3日目くらい)には、成長したブロッコリーの10- 100倍近いイソチオシアン酸塩成分があることを発見しました。最近の研究では、胃がんの原因になるヘリコバクター・ピロリ菌の増殖を抑える効果がブロッコリー・スプラウトに見つかっています。新芽は英語でスプラウト(sprout)と言います。
このような研究から、がん予防の食品としてブロッコリー・スプラウトが一躍注目されています。サラダに入れるとおいしい若芽は、かなり市場に出回るようになりました。ブロッコリー・スプラウトから作ったサプリメントや健康食品も販売されています。
がん予防作用のあるイソチオシアン酸塩成分は野菜の細胞を壊すことで吸収しやすくなるのでアブラナ科野菜を食べる時にはとにかく良く噛むことが大切です。野菜ジュースとして摂取することは効果があります。また、生の野菜をすりつぶして絞った絞り汁(青汁)を利用するのも効果的です。ケールを材料にした青汁などが販売されています。
アブラナ科野菜を通常量取っておれば、がん予防に十分な量のイソチオシアン酸を摂取できると言われています。したがって、これらの野菜から十分な量のイソチオシアン酸をとる努力が大切で、イソチアン酸を栄養補助食品として摂る必要はないと思います。

【きのこ類や海草類は食物繊維やビタミンやミネラルが豊富】

きのこ類に含まれる「ベータ・グルカン」という多糖体が「免疫力を高めてがんを治す物質」として注目されています。ベータ・グルカンは、免疫を担当するマクロファージやリンパ球を刺激して免疫力を高めます。がんが体に残っていても免疫力を高めればがん細胞の増殖を抑えることができ、がんの再発や転移の予防においても有効です。
ベータ・グルカン関連の薬剤(カワラタケ由来のクレスチン、椎茸由来のレンチナンなど)や健康食品(アガリクスやメシマコブなど)は、免疫力を高める目的でがん治療に応用されています。漢方薬で使われるきのこ由来の生薬(茯苓、猪苓、霊芝、冬虫夏草など)も免疫力を高めてがんに効くことが報告されています。しかし、これらの薬剤や健康食品に頼る前に、日常的に食品としてきのこ類(椎茸、まいたけ、えのきだけ、なめこ、しめじ、など)を摂取することも大切です。
ベータグルカンはサルノコシカケ科の仲間に多くふくまれています。生薬の霊芝(サルノコシカケ科のマンネンタケの一種)、猪苓(サルノコシカケ科のチョレイマイタケの菌核)、茯苓(サルノコシカケ科のマツホドの菌核)にも、同様の理由によりがんの予防や治療効果が報告されています。サルノコシカケ科のきのこはとても硬い木片のようで(サルが腰掛けても大丈夫なぐらい頑丈、ということでサルノコシカケと呼ばれている)、味は苦いので食用には使えず、霊芝、猪苓、茯苓など生薬として漢方薬に使用されています。しかし舞茸は例外であり、サルノコシカケ科ですが、柔らかく、味も香りも良いので、食用として使われています。免疫を活性化する作用のある“サルノコシカケ科”のなかで、唯一、食べられるきのことして、舞茸はがん予防のための食材として期待されています。
舞茸に限らずきのこ類は糖質が少なく食物繊維やビタミンやミネラルが豊富なのでケトン食に有用な食材です。きのこ類には体内でビタミンDになるエルゴステロールも含まれています。ビタミンDはがん予防効果があります。
中国では古くからきのこは仙薬としてあつかわれ、少量ずつ毎日とり続けることは、長寿への近道であると考えられています。また、海草類も食物繊維やビタミンやミネラルの宝庫です。がんのケトン食療法では、野菜に加えてきのこ類や海草類を多く取り入れることが大切です。

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