https://orthomolecularmedicine.jp/autism/51 より~
目次 [非表示]
「68人に1人」
アメリカ疾病予防管理センターが発表した米国における自閉症の発症率です。
これは、2000年の調査における150人に1人と比べて、2倍以上の数字です。
ここ10数年、自閉症の発症率の伸びが止まりません。
1970年に1万人に1人だった自閉症発症率がここまで上昇した原因は一体なんなのでしょう?
・認知されたこと?
・自閉症の診断基準が変わったこと?
・環境が悪化したこと?
・ワクチン接種?
諸説ありますが、私は
「 妊娠期間中の母体にのみ葉酸サプリメント摂取が奨励されたこと 」
が大きな要因だと考えています。
今回と次回、2回にわたって葉酸と発達障害の関係について考察してみたいと思います。
葉酸摂取推奨の流れ
葉酸はビタミンBに分類される生理活性物質です。
DNAの合成に必要であり、欠乏するとお腹の中にいる時の赤ちゃんのように細胞分裂の盛んな場所に深刻な影響を与えます。
「二分脊椎」といのは、生まれつき脊椎の一部が形成されない状態で、運動麻痺、感覚障害などを引き起こしますが、
このような発達異常もお腹の中にいる時の葉酸不足が大きく関わります。
そのような出生時障害を予防するために、厚労省が葉酸サプリメントの摂取を推奨したのは、平成12年のことです。
これによると、妊娠を計画している女性は、障害の発症リスクを減らすために、
・妊娠1か月以上前から妊娠3か月までの間、葉酸をはじめとした栄養のバランスのとれた食事をとること
・通常の食事からでは十分な葉酸摂取が困難なので、当面「食事に加えいわゆる栄養補助食品からの葉酸摂取」をすること
と勧告がなされています。
厚労省がこのような英断を行った背景には、日本における二分脊椎発症の増加と、諸外国における葉酸摂取推奨の流れがあります。
葉酸と神経管閉鎖障害の症例対照研究は1980年代に多く行われました。
その結果、英国、米国が1992年に、カナダ、アイルランド、ニュージランド、ノルウェーなどが1993年に強化食品、サプリメントによる1日0.4mgの葉酸摂取を勧告するに至りました。
その後、多くの国で二分脊椎の発症率の大幅な低下が報告されました。
活性型葉酸と不活性型葉酸
さて、先ほど「葉酸不足が二分脊椎の原因」と言いましたが、正確には、
「体内で葉酸を活性化できない赤ちゃんの葉酸不足が原因」です。
葉酸には活性型と不活性型があり、働きをするのは活性化型のみです。
葉酸を活性化できない赤ちゃんには余計に葉酸を足してあげることで、本来の働きを助けてあげることができます。
1990年代当時、すでにこのことは動物実験で確認されていました。
このように酵素の働きを、栄養素の量で補ってあげるのは、まさに分子栄養学の考え方ですね。
葉酸の摂取量を多くすることで、遺伝的に弱い人でも活性化葉酸の体内量を確保できます。
この葉酸を活性化する酵素は、MTHFR酵素(メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素)と呼ばれています。
この酵素を作るための遺伝子に問題がある赤ちゃんが正しく成長するためには人より余計に葉酸が必要です。
というわけで、1990年代前半から始まった葉酸サプリメント摂取の推奨は、各国の二分脊椎の発症を減少させました。
その推移は、先ほどの厚労省のホームページにも記載されています。
この成果は素晴らしいものです。
しかし、その時各国政府はまだ気が付いていなかったのかもしれません。
同時期から、自閉症の発症率が増加し始めることに・・・
このグラフを見てください。
様々な国、年代で行われた自閉症の発症率調査をまとめたものです。
これを見て頂くと、1990年ころから劇的な増加(!)を示しているのがお分かり頂けるでしょう。
葉酸サプリ摂取が、「二分脊椎発症率の低下」と「自閉症の発症率の上昇」を同時に起こした?
なぜ、神経の発達に必要な葉酸の摂取で、自閉症の発症率があがるのでしょうか?
葉酸活性化のできない赤ちゃんの出生率が上がった
MTHFR遺伝子研究の世界的な権威、ベン・リンチ博士は、こういいます。
「 妊娠期間中に母親が多量の葉酸を摂取した事で、MTHFR遺伝子変異を持つ幼児の流産の減少をひきおこし、自然淘汰の在り方を変えたという説がある。
これは、神経が発達する重要な時期に、より多量の葉酸を必要とする幼児の出生率が増加したことを意味している。
発達期により多くの葉酸を必要とする幼児が増えているのだとすれば、 子宮内にいた時と同等の葉酸濃度を維持することができない幼児の絶対数も増えているということ。
故に、自閉症のような発達障害を生じるケースは増加していると考えられる。」
つまり、自閉症が1990年以降増加している理由の一つは、皮肉なことに、
「通常なら死産や神経管異常で生まれてくる赤ちゃんが葉酸のおかげでちゃんと生まれることができるようになったから」
なのです。
確かに妊娠中の葉酸によって、神経管異常のリスクは逃れることができるようになりました。
しかし、残念ながら現時点では、各国の対応は、出生時の神経異常の防止のみにとどまっており、生まれた後のフォロープログラムはありません。
葉酸摂取の推奨は、妊娠1か月前‐3か月のみで、出生後のガイドラインはありません。
MTHFR遺伝子検査のすすめ
神経管異常を起こすMTHFR遺伝子変異は、自閉症の発症にもかかわりが深いことが近年の研究でわかっています。
しかし、新生児マススクリーニング検査(病気を早期発見するため赤ちゃん全員に対して、公費で行なわれる検査)には、MTHFR遺伝子検査はまだ入っていません。
以上の事から、我々の行うべき対応は、はっきりしています。
まずは、自分で検査をしてみましょう!
最近の技術発達のおかげで、MTHFR遺伝子は1万円くらいで検査ができるようになりました。
この遺伝子変異はアジア系に多いという事もすでにわかっています。(日本人は40%以上)
生まれる前だけでなく、生まれた後も葉酸が必要
もう一つ重要な事は、生まれた後も葉酸のフォローが必要だということです。
特に遺伝子変異がある幼児には葉酸の確保が欠かせません。
但し、葉酸サプリならなんでもいいというわけではありません。
ここが非常に重要な点です。
先ほどの厚労省のデータによると日本の神経管障害の発症率は70年代には1万人に15人ほどでしたが、現在では、1万人に5人ほどです。
仮に1万人中、10人が神経管障害を逃れて、全員が自閉症になったとしても、爆発的な自閉症の発症率である68人に1人(1万人中、147人)という数字とはかけ離れているように思えます。
実は、各国政府の行った葉酸政策の問題点は、今回お話しした「 出生後の赤ちゃんのためのフォロー・プログラムがないこと」だけではありません。
「 葉酸量の確保のためにサプリメントを推奨した」ということも非常に関係があることなのです。
次回に続きます。
この件について興味がある方はぜひ、MTHFR遺伝子について詳しく解説しているベンリンチ博士のMTHFRネットを見てみてください。
もともとは英語サイトですが、医科歯科連携協会の方で日本語訳をしたサイトを開設しました。
これからこの分野はどんどん注目されていくと思います。