酸化マグネシウム製剤の腎機能低下患者における血清マグネシウム値への影響

私は、糖尿病で退院したが、1年経過して腎症へ移行した。退院時は透析など腎臓になんら数値の異常はなく、驚いている。この記事を熟読させていただきたい。

 

2013年、長崎大学病院薬剤部の研究者らが、“酸化マグネシウム製剤の腎機能低下患者における血清マグネシウム値への影響”について報告をしたので、その論文概要を紹介します。http://mag21.jp/contents/48

 

背景

 

緩下剤としてひろく使用されている酸化マグネシウム(MgO)は、習慣性が無くかつ安価な薬剤であるが、腎機能低下患者では、慎重投与に指定され、その使用には注意を要する。腎機能低下の重症度とMgOの投与量による血清マグネシウムに対する影響を評価した報告はほとんどありません。

 

目的

 

本研究では、腎機能低下の重症度とMgOの投与量が血清マグネシウム(Mg)へ与える影響について調査し、腎機能低下患者における酸化マグネシウム製剤の適正使用を進める指標の作成を目的としました。

 

方法

 

長崎大学病院を受診した外来・入院患者で、2010年4月1日~2012年2月29日の間にMgO製剤の投与があり、かつ血清クレアチニン(以下Cr)および血清Mgの測定を行った患者を調査対象としました。対象患者のデータは、本院で使用している電子カルテシステムより抽出しました。

 

結果

 

今回、MgO製剤を使用し、血清Mg値および血清Cr値を測定している患者6511例より、慢性腎臓病(CKD)ステージ3以上の患者87例を対象に調査しました。推算糸球体濾過量(eGFR)と血清Mg値は、弱い逆相関にあることが示されました。平均血清Mg値は、eGFR≧15のときには、正常範囲内であったが、eGFR<15では、異常範囲である3.1mg/dLまで上昇が認められました。正常範囲を超えた血清Mg値の割合は、eGFRが15ずつ低下することに異常値を示す割合は上昇し、eGFR<15では60%以上が異常値でした。これらのことから、CKDステージ3以下(eGFR<60)では、eGFRが低下するに従い、血清Mg値が異常高値を示す可能性が高くなり、eGFR<15では、心電図異常を示すといわれる血清Mg値6mg/dL以上になった症例が4件(2例)で認められました。これらのことから、eGFR<15の患者では、MgO製剤の使用に関して、eGFR≧15の患者と比較し、非常に慎重に使用する必要があることが示唆されました。eGFR<15では、1000mg/日以上の投与量で、血清Mg値が6mg/dL以上になった件数が4件(2例)で見られたことから、eGFR<15の場合は、MgOの投与量は1000mg/日未満であることが望ましいと考えられました。

 

参考資料:

 

2012年度科研費研究成果
中村 忠博 腎障害患者における酸化マグネシウム製剤の適正使用に関する研究

 

https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24929014/

 

コメント

 

酸化マグネシウムは、わが国では1950年から日本薬局方に収載され、50年以上にわたり多量で緩下剤(便秘薬)、少量で制酸剤等として現在年間延べ約4500万人に処方されています。

 

酸化マグネシウムの添付文書には、従来から「副作用」の項に高マグネシウム血症が記載され、注意喚起がなされており、臨床現場では酸化マグネシウムの処方に際し、特に腎不全などの病態における高マグネシウム血症の発現に対する注意が既に払われています。しかしながら腎機能低下の重症度と酸化マグネシウムの投与量による血清マグネシウムに対する影響を評価した報告がほとんど無い為、この研究成果は意義があります。

 

厚生労働省(以下、厚労省)医薬食品局安全対策課は平成20年(2008年)11月、「医薬品・医療機器等安全性情報No.252 1.酸化マグネシウムによる高マグネシウム血症について」を発出し、マスコミ報道各社にも公表しました。これに対して、マスコミ各社は同日、一斉に「厚生労働省が通常便秘薬として使われる医療用医薬品酸化マグネシウムの副作用報告(15例のうち2例死亡)として、便秘薬で2人死亡、一般用医薬品のリスク区分分類を第3類から第2類へ引き上げ規制を強化する」などと報じました。その後、日本マグネシウム学会が検証を行い、15例(中央値年齢71歳)のうち13例に腎機能障害を認め、死亡2例は何れも被疑薬(酸化マグネシウム)と死亡との直接的因果関係が無いとし、当時の厚生労働大臣へ「酸化マグネシウム副作用報告の取り扱い問題に関する日本マグネシウム学会の見解・要望書」を提出し、厚生労働省は非を認めて一般用医薬品のリスク区分分類を第3類に留めた経緯があります。

 

因みに、死亡1症例目(86歳女性)は、高マグネシウム血症(17.0mg/dl)、カルシウム負荷で一時的に血圧は上昇し血液透析でマグネシウム濃度が低下したにも拘らずカテコラミン不応性のショック状態が遅延していました。膿性腹水(bacteria検出)も確認され、敗血症と診断されていることから細菌性の敗血症性ショックが死因と考えられ、また、当時の医薬品医療機器総合機構 医薬品医療機器情報提供ホームページ酸化マグネシウム副作用症例で、当該症例の注意事項には“情報不足等により被疑薬と死亡との因果関係は評価ができない”と結論付けられた症例でもありました。死亡2症例目(78歳男性)は、高マグネシウム血症(20mg/dl)、意識障害JCS300、ショックの記載のみで症状の推移の詳細は不明でした。経過では輸液・Ca製剤投与により血中マグネシウム濃度は12.8mg/dlまで順次低下していたが血圧が保てず翌日死亡したと記載されていました。

 

高マグネシウム血症の診断は血清マグネシウムが基準値(キシリジル・ブルー法:1.8~2.6mg/dl)の上限値以上の場合に診断されますが、5㎎/dl以下では症状に乏しいことが多く、それ以上に血清マグネシウム濃度が上昇する場合に徐々に症状が出現します。その際の臨床症状としては食思不振、嘔気、嘔吐、見当識障害、傾眠、筋力低下等がみられ、血清マグネシウム濃度がさらに高値になるにつれて意識レベル低下、深部腱反射低下・消失、血圧低下、徐脈、心電図異常等が見られます。また、臨床現場では、重症妊娠高血圧症候群(子癇)や急性心筋梗塞時の多形心室性頻拍などの致死性不整脈に対して、通常、心電図モニター下で注射用マグネシウム製剤の静脈内投与が行われ、その際の血中マグネシウム濃度は4~8mg/dl程度(小児における不整脈治療では5mg/dl程度)に維持するよう行われ、この程度の高マグネシウム血症の安全性は確認されています。

 

マグネシウムは健康にとってとても重要な必須・主要ミネラルです。にも拘わらず、長年にわたりほとんどの医師がこの不可欠なミネラルの血中マグネシウムを測定することもしませんし、様々な臨床症状も見過ごして来たのが現実です。

 

マグネシウム不足は虚血性心疾患、高血圧・糖尿病・メタボリックシンドロ-ムなどの生活習慣病、喘息、不安とパニック発作、うつ病、(慢性)疲労、片頭痛、骨粗鬆症、不眠症、こむら返り、PMS(月経前症候群)、胆石症、尿路結石、大腸がん、すい臓がん、動脈硬化、全身性炎症性疾患そして悪阻など様々な疾病・病態とも密接に関連しています。

 

当ホームページでは、以下のサイトで今までに酸化マグネシウム製剤の副作用報告問題について解説した記事多数を掲載してきました。

 

2015.11.05 酸化マグネシウム製剤の副作用報告死亡事例への緊急提言

 

2011.09.06 日本の子供と酸化マグネシウムによる便秘治療
酸化マグネシウムで治療の機能性便秘の子供たちの血清マグネシウム濃度

 

2010.03.02  11/6 厚労省安全対策部会議事録公開

マグネシウムに関する様々なご質問を心からお待ちしております

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