ケトン体・ケトン食とは : 

http://ketogenic-diet.org/ketone/ketone-body.html より

【脂肪が燃焼するとケトン体ができる】

ブドウ糖が枯渇した状態で脂肪酸が燃焼するとき、肝臓ではケトン体アセト酢酸β-ヒドロキシ酪酸)という物質ができます。このケトン体は脳にエネルギー源を供給するために肝臓で作られる物質です。
通常、脳はブドウ糖しかエネルギー源として利用できません。脂肪酸は血液脳関門を通過できないので、脳は脂肪酸をエネルギー源として利用できません。体はブドウ糖が枯渇したときに脳のためにエネルギー源を作らなければなりません。そこで、肝臓では脂肪酸を分解する過程でケトン体を生成するように進化したのです。
ケトン体は水溶性で細胞膜や血液脳関門を容易に通過し、骨格筋や心臓や腎臓や脳など多くの臓器に運ばれ、これらの細胞のミトコンドリアで代謝されてブドウ糖に代わるエネルギー源として利用されます。特に脳にとってはブドウ糖が枯渇したときの唯一のエネルギー源となります。
通常は、細胞が必要なエネルギー(ATP)は、グルコースが解糖系からピルビン酸とアセチルCoAを経てTCA回路(クエン酸回路)へと代謝され、さらに酸化的リン酸化によって産生されます。
一方、脂肪酸からエネルギーを産生する場合は、脂肪酸が分解(β酸化)されてアセチルCoAになり、このアセチルCoAがミトコンドリアのTCA回路で代謝されてATPを作り出します。
脂肪酸の酸化で作られるアセチルCoAの多くはTCA回路(クエン酸回路)に入りますが、絶食時などブドウ糖が少ない状況ではアセチルCoAをTCA回路で処理する時に必要なオキサロ酢酸ができないため、TCA回路が十分に回りません。そのためTCA回路で処理できなかった過剰のアセチルCoAは肝臓でケトン体の合成に回されます(図)。

図:TCA回路の最初のステップはアセチルCoAとオキサロ酢酸が結合してクエン酸になる反応で、オキサロ酢酸はピルビン酸からできるので、ブドウ糖が制限された条件では、アセチルCoAはケトン体合成へ振り分けられる。この図で長鎖脂肪酸がミトコンドリアに入る場合はL-カルニチンが必要であるが、中鎖脂肪酸の場合はL-カルニチンは必要ない。

すなわち、肝細胞では、脂肪酸が分解されてできたアセチルCoAの一部はアセトアセチルCoAになり、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA(HMG-CoA)を経てアセト酢酸が生成され、これは脱炭酸によってアセトンへ、還元されてβヒドロキシ酪酸へと変換されます。このアセト酢酸、βヒドロキシ酪酸、アセトンの3つをケトン体と言います(図)。

図:グルコース(ブドウ糖)が枯渇した状態で脂肪の摂取を増やすと、肝臓では脂肪酸のβ酸化が亢進されて生成されたアセチルCoAはケトン体の産生に振り分けられる。アセト酢酸とβヒドロキシ酪酸は血液を介して他の組織や細胞に運ばれて、アセチルCoAに変換されてTCA回路でATP産生に使用される。

脂肪酸と違ってケトン体は水溶性であるため、特別な運搬蛋白質の助けがなくても肝臓からその他の臓器(心臓や筋肉や腎臓や脳など)に効率よく運ばれ、細胞内でケトン体は再びアセチル-CoAに戻され、TCA回路で代謝されてエネルギー源となります。この際、エネルギー産生に使われるのはアセト酢酸のみで、βヒドロキシ酪酸はアセト酢酸に変換されて初めてエネルギー代謝に使用され、アセトンはエネルギー源にはならず呼気から排出されます(図)。

図:肝臓で生成されたケトン体(アセト酢酸とβヒドロキシ酪酸)は肝臓以外の組織の細胞に運ばれミトコンドリアのTCA回路と電子伝達系でATP産生に使われる。すなわち、βヒドロキシ酪酸からアセト酢酸への変換時とTCA回路での反応でNADHやFADH2に捕捉された電子は電子伝達鎖で受け渡され、最終的にATP合成酵素によってATPが合成される。

肝臓はケトン体を作り出しますが、ケトン体をエネルギー源として利用できません。肝臓はケトン体を他の臓器・組織のエネルギー源として供給するための工場で、作ったケトン体を自分で消費しないように酵素が欠損しているためです。
飢餓(あるいは絶食)時やインスリン欠乏による糖尿病などでグルコースが利用できない場合、ケトン体が重要なエネルギー源となります。脂肪酸は血液脳関門を通過できませんが、ケトン体は通過できるので、グルコースが利用できない場合の脳の唯一の代替エネルギーとなっています。
ケトン体は一部のアミノ酸からも産生されます。蛋白質はアミノ酸に分解されてから代謝されますが、アミノ酸ごとに代謝経路が異なります。アミノ酸のうち、脱アミノを受けたのち、その炭素骨格部分が脂質代謝経路に由来して、主として脂肪酸やケトン体合成に利用されるものをケト原性アミノ酸(ketogenic amino acid)と呼び、一方、TCAサイクルに入って糖産生に利用されるものを糖原性アミノ酸(glucogenic amino acid)と呼びます。アミノ酸は細胞内で蛋白合成の材料としてだけでなく、グルコースや脂肪酸が不足してエネルギー源がなくなると、蛋白質もアミノ酸に分解され、グルコースやケトン体に変換されてエネルギー産生に利用されるということです。

【インスリンの作用が正常ならケトン体は無害】

ケトーシス(ケトン症:ketosis)は血中のケトン体が増加した状態です。ケトン体のアセト酢酸とβヒドロキシ酪酸は酸性が強いので、ケトン体が血中に多くなると血液や体液のpHが酸性になります。このようにケトン体が増えて血液や体液が酸性になった状態をケトアシドーシス(ketoacidosis)と言います。
糖尿病性ケトアシドーシスは主に1型糖尿病患者に起こり、インスリンが不足した状態で脂肪の代謝が亢進し、血中にケトン体が蓄積してアシドーシス(酸性血症)を来たし、ひどくなると意識障害を来たし、治療しなければ死に至ります。
このように糖尿病の人では血液中のケトン体濃度の上昇は糖尿病の悪化を示すサインとして知られていますので、ケトン体は体に悪い物質と思われる方が多いと思います。しかし実際は、インスリンの働きが正常である限りケトン体は極めて安全なエネルギー源です
肝細胞と赤血球(ミトコンドリアが無い)を除く全ての細胞で利用でき、日常的に産生されているからです。糖質を普通に摂っている人での血中ケトン体(アセト酢酸とβヒドロキシ酪酸の合計)の基準値は26~122μmol/lです。絶食すると数日で血中ケトン体は基準値の30~40倍もの高値になりますが、インスリンの作用が保たれている限り安全です。一時的に酸性血症(アシドーシス)になることもありますが、血液の緩衝作用によって正常な状態に戻ります。
つまり、ケトン体の上昇が怖いのは、インスリンの作用不足がある糖尿病の場合で、糖尿病性ケトアシドーシスはインスリン作用の欠乏を前提とした病態です。断食や糖質制限に伴うケトン体産生の亢進の場合は生理的であり、インスリン作用が正常であれば何の問題もないと言えます。

胎児・新生児のケトン体は高値。ケトン体の安全性の証明。

こんばんは。

2014年1月12日(日)

大阪国際会議場で開催された第17回日本病態栄養学会年次学術集会に参加してきました。

お目当ては、10:50~12:00に発表された糖質制限食3題です。

一般演題69 小児栄養・母子栄養②
第2日目1月12日(日)10:50~12:00  会議室801+802

O-429 妊娠糖尿病における糖質制限食事療法の導入効果の検証第2報1
永井クリニック松本桃代、他

O-430 妊娠糖尿病における糖質制限食事療法の導入効果の検証2第二報CGMによる検討を加えて
宗田マタニティクリニック河口江里、他

O-431 妊娠糖尿病における糖質制限食事療法の導入効果の検証3糖質制限食による高ケトン血症は危険か?
宗田マタニティクリニック宗田哲男

永井クリニック松本桃代管理栄養士は、昨年に続いて、妊娠糖尿病において、糖質制限食が血糖管理に有効であり、安全に実施できることを報告されました。

宗田マタニティクリニック河口江里管理栄養士は、CGM(Continuous Glucose Monitoring:持続ブドウ糖測定)システムを使用して、糖質制限食と糖質を摂取した場合の、血糖変動を比較検討されました。

その結果、糖質を摂取すれば食後高血糖と平均血糖変動幅増大を生じ、糖質制限食ならそれらが生じないことを示されました。

宗田哲男先生は、普通に糖質を食べている女性における人工流産児の絨毛のケトン体値を、58検体測定され、平均1730μmol/Lで、通常の基準値(血中総ケトン体28~120μmol/l)に比しはるかに高値であることを報告されました。

58検体全てが成人の基準値よりはるかに高値でしたので、胎児のケトン体の基準値は成人よりかなり高値であると言えます。

これは世界で初めての報告であり、極めて貴重なデータです。(^-^)v(^-^)v

6週から18週までの胎児の絨毛間液のケトン体値がこれほど高値であることは、胎児の脳を始めとした組織の主たるエネルギー源はケトン体である可能性を示唆しており、このことはそのままケトン体の本質的安全性を証明するものです。
勿論58検体全例で、酸性血症(アシドーシス)ありませんでした。

また生後4日目の新生児312名において、血中ケトン体の平均値は240.4μmol/L
生後1ヶ月の新生児40名において、血中ケトン体の平均値は400μmol/L

と一般的な基準値よりはるかに高値であることを報告されました。

新生児のケトン体値の報告も、これだけの数がまとまったのは、おそらく世界で始めてと思います。

このデータからは、新生児においても血中ケトン体は重要なエネルギー源となっていることを示唆しており、ここでもケトン体の安全性が保証されたことになります。

ヒューマン・ニュートリション第10版(医歯薬出版)2004年、P748
脳の代謝の項目に
「・・・母乳は脂肪含有量が高くケトン体生成に必要な基質を供給することができる。
発達中の脳では血中からケトン体を取り込み利用できるという特殊な能力があり、新生児においてはケトン体は脳における重要なエネルギー源となっている。・・・」
との記載があります。

ヒューマン・ニュートリションは、英国で最も権威のある人間栄養学の教科書です。

新生児においては、ケトン体は脳の重要なエネルギー源ということを明記してあるのはすごいです。

一方、新生児だけではなく、胎児においてもケトン体は脳における重要なエネルギー源の可能性が高いことは、世界で初めて宗田哲男先生が示されたわけです。

今回の宗田先生の研究成果は、今後「ヒューマン・ニュートリション」にも引用されていくと思います。

宗田哲男先生、松本桃代管理栄養士、河口江里管理栄養士のお三方、糖質制限食やケトン食推進において、ターニング・ポイントとなる貴重な発表をありがとうございました。 m(_ _)m

江部康二

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