オステオカルシンのインスリン分泌にインクレチンが働くことを発見ブックマーク

2013年4月25日

九州大学大学院歯学研究院 口腔細胞工学分野
平田 雅人 主幹教授

近年、骨芽細胞が作るペプチド、オステオカルシンがインスリンの分泌を促し、細胞のインスリン感受性を高めることで糖代謝を促進し、体重を減らすことが報告されている。また、消化管から分泌されるホルモン、インクレチンも新しいタイプの糖尿病治療薬として承認され、今、話題になっているところだ。

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九州大学大学院歯学研究院 口腔細胞工学分野 平田雅人主幹教授は、日本学術振興会RPD (Restart Postdoctoral Fellowship) の溝上顕子氏らとともに、オステオカルシンがインクレチンの一種であるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の分泌を促し、相互に関連して糖代謝に働きかけることを明らかにした。

49個のアミノ酸からなるオステオカルシンには、γカルボキシラーゼによってカルボキシル化されたGla型オステオカルシン(GlaOC)と、全くあるいはほとんどカルボキシル化されていないGlu型オステオカルシン(ucOC)がある。ヒトでもマウスでも体内では大部分がGlaOCとして骨基質に埋もれているが、血中にもわずかに存在し、約8割がGlaOC、残りの約2割がucOCとして循環している。

一方、インクレチンは消化管から出るホルモンの総称で、現在のところ、GLP-1とグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)の2種類が知られている。いずれも食事成分(糖や脂肪)が腸管粘膜に接することにより、粘膜細胞から血中に分泌され、膵臓に達すると血糖値に依存してインスリンの分泌を促す。GLP-1は膵臓のβ細胞の増殖にも関係し、胃では内容物が腸に出る量を調節していることもわかってきた。そのため、最近、GLP-1に似た構造を持つGLP-1受容体作動薬や、GLP-1とGIPの分解酵素ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)を抑制するDPP-4阻害薬が血糖降下薬として次々に承認され、糖尿病治療に使われ始めている。

平田主幹教授らは、GLP-1を分泌するマウスの小腸由来の細胞株にucOCを作用させると、ある範囲内で濃度依存的にGLP-1を分泌すること、そして、ucOCをマウスの腹腔や静脈に注射した場合、また、GlaOCを経口投与した場合にもGLP-1濃度が上昇することを明らかにした。さらに、マウスにGLP-1受容体を阻害するexendin(9-39)を作用させた上で、ucOCの注射による投与やGlaOCの経口投与を行うと、ucOCによるインスリン分泌がexendin(9-39)を与えない場合に比べて低くなることも証明した。つまり、ucOCによるインスリン分泌の増強には、GLP-1が関わる部分があることを突き止めたのだ。「GlaOCを経口投与すると、ucOCの血中濃度が増えることも確かめており、胃酸によってGlaOCのカルボキシル基がはずれてucOCに変わり、腸管でGLP-1の分泌を促進して、インスリンの分泌を進めていると考えられる」と平田主幹教授は説明する(図参照)。

平田主幹教授は九州大学歯学部を卒業後、細胞のカルシウム濃度に関するシグナル伝達、とくに細胞質内に存在するシグナル伝達物質イノシトール三リン酸(IP3)を研究してきた。母校の生化学教室の教授に就任後、2003年にイノシトール(1.4,5)三リン酸に結合するタンパク質PRIP-1を発見、その後、PRIP-1が細胞膜上の重要な受容体であるγ-アミノ酪酸A(GABAA)受容体のリン酸化の調節に関わることを明らかにしている。平田主幹教授らがオステオカルシンやインクレチンによるインスリンの分泌に関心を持ったのは、PRIP-1ノックアウトマウスのメスで骨量が増え、インスリンの分泌量も増えることがわかったのがきっかけだ。

現在、PRIP-1、オステオカルシン、インクレチン、インスリンをキーワードに、骨(bone)・腸(gut)と膵臓・代謝(metabolism)の3つ(BGM)の連関について研究を進めている。「PRIP-1の有無によってGLP-1やucOCのインスリン分泌量が変わることがわかってきた。また、GLP-1がucOCを増やし、脂肪細胞にアディポネクチンを分泌させること、ucOCもアディポネクチンを増やすことも知られている。骨が丈夫になると肥満になりにくいといった相関があるかもしれない」と平田主幹教授。糖尿病など代謝に詳しい共同研究者を募って、研究を広げていきたいと抱負を語っている。

小島あゆみ サイエンスライター

骨が作るタンパク質が血糖値を下げる オステオカルシンが代謝を改善

九州大学は、骨で作られるタンパク質である「オステオカルシン」を経口投与することで、血糖値が下がり、全身の代謝が活性化することを明らかにしたと発表した。
オステオカルシンは、骨を形成する細胞である骨芽細胞が分泌するタンパク質。骨中に約0.4%の割合で存在し、わずかな量が血中を循環している。全身のエネルギー代謝を活性化する作用があり、近年注目を集めている。  同研究グループは2013年に、インスリン分泌を増加させる働きをするインクレチンであるGLP-1を介して、オステオカルシンがインスリン分泌を促進することをはじめて解明した。また、オステオカルシンを経口投与しても効果があることも明らかにしていた。

オステオカルシンがGLP-1を介してインスリン分泌を促進

今回の研究では、オステオカルシンを長期間飲み続けた際に全身のエネルギー代謝にどのような影響を及ぼすかを調べ、さらに、経口投与したオステオカルシンがどの程度血中に吸収され、消化管に残るのかを明らかにした。

研究グループが雌のマウスに、離乳直後から週3回、3ヵ月にわたってオステオカルシンを飲ませたところ、空腹時の血糖値が低下し、糖尿病の指標である耐糖能が改善した。

オステオカルシンを飲み続けたマウスの膵臓では、インスリンを合成・分泌するランゲルハンス島のβ細胞が増殖し、ランゲルハンス島が増大していることがわかった。それに伴ってインスリンの分泌量も増えていた。

高脂肪・高炭水化物のエサで飼育したメタボリックシンドロームのマウスでも同様に、オステオカルシンによって糖代謝が改善する結果が得られた。

続いて、GLP-1の作用を阻害する薬剤を投与した後に同様の実験を行うと、これらの効果はみられなかった。これにより、オステオカルシンによる糖代謝改善効果の大部分は、GLP-1を介したものであると考えられるとしている。

経口投与によってオステオカルシン濃度が上昇

研究チームは、経口投与したオステオカルシンの動態を調べ、わずかな量が消化液で分解されずに小腸まで達し、少なくとも24時間とどまっていることを突き止めた。

吸収されたオステオカルシンは全身を循環している血液中にあり、血中オステオカルシン濃度が上昇するのに伴い、血中のGLP-1濃度も上昇することも分かった。

経口投与は簡単で安全な方法という利点がある。経口投与によってオステオカルシンの血中濃度を上げることができれば、さらなる血糖降下作用が期待できる。

「オステオカルシンは、代謝改善などメタボリックシンドロームの予防薬として使える可能性がある。オステオカルシンの吸収を促進するような物質がみつかれば、それとの併用投与も有効だろう。研究を重ねて、臨床応用の道を探りたい」と、研究チームの平田雅人主幹教授は話している。

研究は、九州大学大学院歯学研究院口腔細胞工学分野の平田雅人主幹教授、溝上顕子助教と同大大学院歯学府の安武雄氏らの研究グループが、九州歯科大学応用薬理学分野の竹内弘教授のグループと共同で行った。

九州大学 大学院歯学研究院

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