高カリウム血症の基礎知識
高カリウム血症とは?
- 血中のミネラルの一つであるカリウムの濃度が高くなった状態
- 突然の心停止などにつながり得る危険な状態である
- カリウムの主な役割
- 細胞内の浸透圧の調整
- 筋肉の収縮
- 神経の働きを保つ
- 食事から多くのカリウムを摂取しても、通常は腎臓の働きによって尿にカリウムが排泄される
- 腎臓の働きが低下するとカリウムが溜まり、高カリウム血症になりやすくなる
- 腎臓が正常なら、食事の偏りが原因で高カリウム血症になることはない
- 薬の副作用も原因のひとつ
- 血中のカリウム濃度が高くなってしまう原因
- 高カリウム血症の原因になる薬剤
- NSAIDs:ロキソプロフェン(商品名ロキソニン)、ジクロフェナク(商品名ボルタレン)など
- ACE阻害薬:テモカプリル(商品名エースコール)、イミダプリル(商品名タナトリル)、エナラプリル(商品名レニベース)など
- ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬):ロサルタン(商品名ニューロタン)、カンデサルタン(商品名ブロプレス)、テルミサルタン(商品名ミカルディス)、オルメサルタン(商品名オルメテック)、イルベサルタン(商品名アバプロ、イルベタン)、アジルサルタン(商品名アジルバ)など
- 免疫抑制薬:シクロスポリン(商品名ネオーラル、サンディミュン)、タクロリムス(商品名プログラフ)など
- 抗菌薬:ST合剤(商品名バクタ)、ペンタミジン(商品名ベナンバックス)など
- タンパク質分解酵素阻害薬:ナファモスタット(商品名フサン)
- 抗アルドステロン薬:スピロノラクトン(商品名アルダクトン)、エプレレノン(商品名セララ)など
- カリウム保持性利尿薬:トリアムテレン(商品名トリテレン)、アミロライドなど
- ヘパリン
- ペニシリンG
- β遮断薬、ジギタリス、アミノ酸製剤、サクシニルコリン
- 慢性腎臓病や糖尿病腎症の治療に使われる降圧薬のレニン・アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬、ARB)は高カリウム血症の原因になりうる
- 採血の失敗(溶血)で検査上高カリウム血症のように見える場合がある
症状
- 主な症状
- 筋力の低下(脱力感)
- 不整脈
- 吐き気、嘔吐
- しびれ、感覚障害 など
検査・診断
治療
- 治療の目的
- 血液中のカリウム濃度を低下させる
- 不整脈の出現を予防する
- 薬物療法
- 補液、輸液
- 陽イオン交換樹脂製剤:カリウムの体内への吸収を抑える
・ポリスチレンスルホン酸カルシウム(商品名カリメート)、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(商品名ケイキサレート)など - 利尿薬:カリウムの尿中への排泄を促進する
- 重炭酸ナトリウム(重曹):血液中のカリウムを血液の外へ移動させて、一時的にカリウムの濃度を低下させる
- ブドウ糖とインスリンの併用(グルコース・インスリン療法):血液中のカリウムを細胞内へ移動させて、一時的にカリウムの濃度を低下させる
- β2アゴニスト:カリウムの細胞内への移動を促す
- カルシウム製剤:カリウムの心臓に対する影響を出にくくする
- 鉱質コルチコイド製剤(商品名:フロリネフ):カリウムの尿中への排泄を促進する
- 血液透析(緊急性の高い場合)
- 薬物療法のみで早期改善が見込めない場合や、心臓への影響のため直ちに薬物療法以外の治療が必要な場合には、血液透析を行う
- 血管に太めの管(カテーテル)を入れて、血液中のカリウムを直接洗い流す
- 食事療法
- 急な対応が不要な場合には、カリウムを多く含む食品を制限する
・海藻類(昆布、ひじき、わかめ、海苔)、キノコ(マイタケ、シイタケ、きくらげ)、豆類(大豆、インゲンマメ、小豆)、バナナ、牛乳、杏子、鮭など - カリウム摂取量は1日あたり1500mg以下を目安とする
- 慢性腎臓病による場合ではタンパク質制限、塩分制限が同時に必要になる
- 糖尿病腎症による場合はさらに複雑になる
- 急な対応が不要な場合には、カリウムを多く含む食品を制限する
高カリウム血症に関連する治療薬
陽イオン交換樹脂製剤(血清カリウム抑制剤)
- 腸管内で薬剤のもつ陽イオンをカリウムイオンと交換しカリウムイオンを排泄させて血液中のカリウム値を下げる薬
- 慢性腎不全では腎機能低下により血液中のカリウム値が高くなりやすくなる
- 血液中のカリウム値が高いままだと高カリウム血症がおこりやすくなる
- 本剤は腸管内でカリウムイオンを本剤のもつ陽イオンと交換し、体外へ排泄させる樹脂製剤
カルシウム製剤
- 体内にカルシウムを補充し、骨粗しょう症、高リン血症、消化器症状などを改善する薬
- カルシウムは体内で骨を強くする作用、リンを体外へ排泄する作用、胃酸に対する制酸作用などをあらわす
- 本剤はカルシウムを含有する製剤で、製剤毎の特徴などによって色々な疾患・症状に使用する
- 本剤は主に有機酸系カルシウム製剤と無機系カルシウム製剤に分かれる
インスリン製剤
- インスリンを体内に投与することで、血糖値を下げ糖尿病による合併症を防ぐ薬
- 糖尿病は血糖値が高い状態で、この状態が続くと様々な合併症を引き起こす
- インスリンは血糖を下げるホルモン
- インスリン製剤はインスリンアナログ製剤とヒトインスリン製剤に分かれる
- インスリン製剤は作用発現時間や作用持続時間などにより以下の種類に分かれる
- 超速効型:作用発現時間が10〜20分、作用持続時間は3〜5時間で「食直前に投与」
- 速効型:作用発現時間は30分〜1時間、作用持続時間は5〜8時間で「食前30分に投与」
- 持効型:作用持続時間は約24時間又はそれ以上で、継続使用時に明らかなピークが見られないため、中間型に比べてよりスムーズに基礎分泌を補いやすいメリットが考えられる
- 中間型:作用発現時間は30分〜3時間、作用持続時間は18〜24時間(同じ中間型でも製剤によっては作用持続時間に開きがある場合もある)
- 混合型:超速効型又は速効型に、一定量の添加物を加えたり中間型を組み合わせた製剤(超速効型又は速効型の配合割合が複数存在する)
高カリウム血症の経過と病院探しのポイント
この病気かなと感じている方
高カリウム血症では、胸の動悸や吐き気といった症状が出現します。通常高カリウム血症になる原因として腎不全や横紋筋融解症など何らかの別の病気がありますので、高カリウム血症だけが突然起きるという心配はありません。
高カリウム血症の診断そのものは、血液検査が行える医療機関であればどこでも可能です。しかし、実際に高カリウム血症と診断されたときの治療まで考えると、総合病院の救急科、もしくは内科の受診が望ましいでしょう。また、高カリウム血症によって不整脈が出ることがあるため、心電図の検査も合わせて行われます。
高カリウム血症は、血液検査の結果で診断します。カリウムの血中濃度は通常3.5-5.0mEq/l程度ですが、この範囲を越えて更に6-7mEq/l以上になると症状が出始めます。自己診断は難しい病気ですので、何らかの理由で高カリウム血症が心配な方は、まず病院を受診して血液検査を受けることをお勧めします。
この病気でお困りの方
高カリウム血症の治療には、様々な点滴や吸入薬があります。高カリウム血症が悪化すると突然死の原因になり得ますので、重症の場合には緊急の治療が必要です。
このような治療を行うのは、救急科、または内科全般が専門の診療科です。どちらかと言えば重症の場合は救急科、そうでない場合は内科が担当することになります。突然の高カリウム血症ではなく、週単位や月単位で軽度の高カリウム血症が持続しているような場合には、内科で対応することになるでしょう。高カリウム血症が起きている原因が何かしらあるはずですから、高カリウム血症の治療というよりも、その原因の治療が重要となります。
高カリウム血症の原因として多いのは腎臓の異常で、その場合は腎臓専門医が診療を行います。重症であれば、血液透析といって献血のように体外に一度血液を取り出して、そこから余分なカリウムだけをフィルターで除去し、残りの血液を体内に戻すといった処置を行います。このような特別な治療が必要になる可能性を考えると、数日間で生じたような急激な高カリウム血症の場合にはクリニックではなく地域の中核病院での治療が必要です。