vol.148 食事からの摂取基準が撤廃されたコレステロール ――しかし注意しなければいけない点は?

 

Vol.148 食事からの摂取基準が撤廃されたコレステロール ――しかし注意しなければいけない点は?「卵は1日1個までにしないとコレステロール値が上がると聞いている」、「イカ、タコ、エビ、貝類はコレステロール値が高くなるから食べるのを控えなさい、と医者に注意された」という話を聞いたことはありませんか。しかし、実はコレステロールを多く含む食品を食べても、血中コレステロール値には影響がないとされています。厚生労働省は2015年、日本人の食事摂取基準からコレステロールの上限値を撤廃しました。それはなぜなのでしょうか。また、脂質異常症にならないために、気をつけなければいけない点は何でしょうか。そのポイントをお伝えします。

コレステロール値の不思議

コレステロールは、体内で合成できる脂質です。体重50kgの人で1日600~650mgが主に肝臓で作られています※1。食事で摂取されるコレステロールは、男性の中央値が297mg、女性が263mg(30~49歳、1日あたり)で※2、その40~60%が吸収されますが、体内で作られるコレステロールの3分の1から7分の1を占めるに過ぎません※1。つまり、食事から摂取されるコレステロールが20~30%なのに対して、体内で合成されるコレステロールは70~80%になるのです。
そして重要なのは、コレステロールを食事から多く摂取すると肝臓でのコレステロール合成は減少し、逆に食事から摂取する量が少ないとコレステロール合成が増加するという点です。これは、体のすみずみまでコレステロールが一定に補給されるように、フィードバック機構が働くためです。つまり、食事によるコレステロール摂取量が、そのまま血中総コレステロール値に反映されるわけではないのです※1。

コレステロールというと、すべて悪者のようにとらえている人も多いことでしょう。しかし、コレステロールは私たちの体にとって、必要不可欠なものです。だから体内で合成できる仕組みになっているといっても過言ではありません。
コレステロールはリン脂質とともに細胞膜の材料になります。私たちの体の細胞は常に古い細胞が死に、新しい細胞に入れ替わっています。新しく生まれてくる細胞を作るために、コレステロールは欠かせないのです。また、1日に3000個以上生まれているといわれるがん細胞を退治してくれる免疫細胞の膜も、コレステロールが材料となります。

また、コレステロールはさまざまなホルモンの材料となります。男性ホルモン、女性ホルモンもコレステロールから作られます。コルチゾールなど副腎皮質ホルモンの材料となるのもコレステロールです。コルチゾールは糖やたんぱく質、脂質の代謝に関与しており生命維持に欠かせないホルモンです。
さらに、紫外線を浴びると体内でコレステロールを材料としてビタミンDが合成されます。加えて消化液の一種、胆汁酸の材料もコレステロールです。つまり、私たちの体に必要なものがコレステロールを材料として作られているのです。

※1「日本人の食事摂取基準(2015年版)」(厚生労働省)

※2 平成22年、23年国民健康・栄養調査(厚生労働省)

善玉コレステロールと悪玉コレステロールって何が違うの?

一般的にLDLコレステロールは悪玉、HDLコレステロールは善玉と呼ばれています。これは、それぞれの働きが異なっているからです。
コレステロールは脂質のため、水分である血液の中をスムーズに移動することができません。そのため、外側が水と親和性のある特殊なたんぱく質、リポたんぱくと結合して血液中を移動します。いわば、カプセルのようなものの中に入って体中を駆け巡るのです。

まず、おもに肝臓で作られたコレステロールは、中性脂肪と一緒にカプセルで血液中を移動して全身の細胞に届けられます。そしてエネルギーの元となる中性脂肪が先に多く使われます。コレステロールが多く残ったカプセルは密度が低いため、LDL(低密度リポたんぱく。LDはLow Density、Lはリポたんぱく)と名付けられています。ちなみに、中性脂肪が減る前の段階は、LDLよりさらに密度が低いためVLDL(VはVeryの頭文字)という名称がつけられています。
また、全身の細胞から余ったコレステロールを回収して肝臓に戻す働きをするカプセルがあります。これがHDL(高密度リポたんぱく。HDはHigh Density)で、たんぱく成分が多いため密度が高いのです。そして回収されたコレステロールは肝臓でリサイクルされ、一部は胆汁酸の材料にもなります。そして、LDLの中にあるコレステロールがLDLコレステロール、HDLの中にあるのがHDLコレステロールというわけです。
LDLは体のすみずみにコレステロールを運んでいますが、それが血管壁に蓄積されてしまうと動脈硬化を進行させる原因となるから悪玉、HDLは血管壁から余ったコレステロールを回収して肝臓に戻すから善玉と呼ばれています。つまりコレステロール自体の問題ではなく、どのように働いているかによって呼び名がつけられているのです。

近年、動脈硬化を進行させてしまうのは酸化LDLコレステロールであることが明らかにされています。体内の活性酸素とLDLコレステロールが結びつくと酸化されてしまい、それが血管壁に吸収されやすくなってしまうのです。
さらに怖いのは、超悪玉と呼ばれる小型LDLコレステロールです。血管内皮細胞の1000分の1ほどといわれる小型LDLコレステロールですが、まだ解明されていない点が多いのも事実です。しかし中性脂肪が多いと小型化されやすいことと、小型であるがゆえに酸化されやすいことが指摘されています。そして血管壁に入り込みやすいサイズのため、動脈硬化をより進行させてしまうことが懸念されているのです。

コレステロールの摂取基準が撤廃されたといって、脂質異常症がなくなったわけではない

アメリカでは、2013年に心臓病学会などが「コレステロールの摂取制限を設けない」としており、2015年2月に農務省と保健福祉省は「コレステロールを多く含む食品の摂取制限に関して新しいガイドラインから削除する方針」であることを明らかにしました。
そして日本でも2015年、食事におけるコレステロールの摂取量に関して上限値が撤廃されました。
これに関して米国心臓協会などは「食事からのコレステロール摂取量を減らすことで、血中コレステロール値が低下するという明確な証拠がない」ということを理由にしています。また厚生労働省も「コレステロール摂取の上限値を算定するのに、十分な科学的根拠が得られなかったから」としています。

しかし、コレステロールの摂取が制限されなくなったからといって、脂質異常症という疾患がなくなったわけではありません。
高LDLコレステロール血症=LDLコレステロール値が140mg/dℓ以上
低HDLコレステロール血症=HDLコレステロール値が40mg/dℓ未満
高トリグリセライド血症=中性脂肪(トリグリセライド)値が150mg/dℓ以上
この3つの数字のどれかでも範囲を超えたら、脂質異常症と診断されます。血液中のLDLコレステロールや中性脂肪が多くなりすぎても、HDLコレステロールが少なすぎても脂質異常症なのです。

脂質異常症の恐ろしい点は、ほとんど症状が現れないことです。しかし長期間にわたって全身の血管が傷つけられることで、動脈硬化が進行します。動脈硬化が進行すると、心臓や脳の血液の流れが悪くなり、最悪の場合は脳卒中や心筋梗塞といった疾患につながってしまうのです。

また、LDLコレステロールとHDLコレステロールの比率に関しても注意する必要があります。
LDLコレステロール値÷HDLコレステロール値
で計算し、1.5以下の場合は血管内が健康に保たれていると考えられ、2.0以上は動脈硬化の可能性があり、2.5以上の場合は脳卒中や心筋梗塞などのリスクを心配したほうがいいというものです。つまり、HDLコレステロールが多いほど血管を健康に保ち、LDLコレステロールが増えればそれらが酸化されてしまう可能性が高くなるため、生活習慣病に近づいてしまうと考えられるのです。

動脈硬化につながる脂質異常症にはどう対応すればいい?

動脈硬化を防ぐ一番のポイントは、LDLコレステロールの酸化を抑制することです。次に重要なのが、HDLコレステロールを増やしてLDLコレステロールと中性脂肪を減らし、「脂質を正常化」することです。中性脂肪を減らすことで、LDLコレステロールの小型化も抑制できる可能性があるのです。

では活性酸素によるLDLコレステロールの酸化を防ぐ方法はあるのでしょうか。活性酸素は喫煙や飲酒、酸化した食用油などによって産生されます。また、紫外線を浴びても、激しい運動をしても活性酸素が生じるだけでなく、普通の呼吸で取り込んだ酸素の一部も活性酸素になります。活性酸素は体内に侵入したウイルスや細菌を殺すという役割を担っているため、体に悪いことばかりではありません。しかし、活性酸素が増えすぎると問題が生じるのです。

まず活性酸素を抑えるためには、抗酸化物質を多く含む食品を摂ることが大切です。
3大抗酸化ビタミンと呼ばれるビタミンC、ビタミンE、β-カロテンは、緑黄色野菜に多く含まれています。トマトに含まれているリコピンや、ナスに含まれているアントシアニンなどの天然色素も抗酸化物質です。また、赤ワインやお茶に含まれているポリフェノールも抗酸化物質です。日頃の食事にこういった素材をプラスするのが、LDLコレステロールの酸化を防ぐのに有効だと考えられます。
今、さまざまな健康効果で注目を集めているココナッツオイルも見逃せない食品です。ココナッツオイルには中鎖脂肪酸が豊富に含まれています。中鎖脂肪酸はエネルギーとして燃焼されやすいため、体脂肪として蓄積されにくいことで脚光を浴びていますが、ココナッツオイルの良さはそれだけではありません。中鎖脂肪酸が燃焼すると肝臓ではケトン体が作られますが、このケトン体が活性酸素を無害化することが明らかになっているのです。

HDLコレステロールを増やすには、まず運動が一番で、ウォーキングはその代表例です。1日の歩数とHDLコレステロール値との関係を調べた結果、歩数が多いほどHDLコレステロールが増えるということがわかっています。また、早歩きを組み込むと、運動強度も高まり効果的です。歩数計や活動量計のなかには早歩き歩数をカウントしてくれる機種もありますので、そういった機能を活用するのも一つの方法です。
また、太ももの大腿筋やお尻の大臀筋など、大きな筋肉を動かすことで代謝をアップさせる有酸素運動は、コレステロール値の改善に向いていると考えられます。サイクリングや軽めのジョギング、水泳、エアロビクス、ラジオ体操などがそれに当たります。

次にHDLコレステロールを増やすと考えられる食品を知っておくことです。
アジやイワシ、サバなど青背魚に含まれるDHA、EPAはHDLコレステロールを増やしてくれます。それだけでなくLDLコレステロールと中性脂肪を減らしてくれるので一石二鳥です。DHAやEPAは熱にはわりと強いのですが、魚を煮ると煮汁に溶け出したり、焼くと脂が落ちたりして20~30%前後が失われ、揚げ物にすると揚げ油に溶け出し半減するともいわれていますので、刺身や煮汁も食べられる煮魚にするといいでしょう。また、EPAは空気に触れると酸化しやすいので、新鮮な状態を保つように注意しましょう。
エゴマ油やアマニ油に含まれているα-リノレン酸は、体内で10~15%程度がDHAやEPAに変換されるといわれています。これらの油を有効活用するのも手です。
ネギの刺激臭のもとであるアリシン、玉ねぎの硫化アリルはHDLコレステロールを増やしLDLコレステロールを減らすと考えられています。また、大豆レシチンもHDLコレステロールを増やすとされています。

アルコールは適量ならHDLコレステロールを増やすといわれています。しかし、適量というのはビールでは1日中瓶1本、日本酒なら1合、ウイスキーはダブルで1杯程度。この量でストップできる自信があるなら、試してみる価値はありそうです。
しかし、アルコールを飲み過ぎてしまうと中性脂肪の合成を促進させてしまいます。すると脂質異常症の原因になったり、LDLコレステロールの小型化を招いたりと、いいことはありません。
ちなみに中性脂肪を増やすのは揚げ物の油や肉などの脂質だと考えがちですが、実際にはほとんどが糖質とアルコールです。糖質は体のエネルギー源となる重要な栄養素ですが、過剰摂取は禁物なのです。

また、オリーブオイルやアーモンド、マカダミアナッツなどに含まれているオレイン酸は、HDLコレステロールを減らさずにLDLコレステロールだけを下げるといわれています。ちなみにアーモンド100g中には、31mgという豊富なα-トコフェロールが含まれています※。ビタミンEは4種類のトコフェロールと4種類のトコトリエノールに分けられますが、そのなかでもα-トコフェロールは、非常に抗酸化作用が強い成分です。また、乳酸菌とカテキンの両方を摂ると、LDLコレステロールが減るという報告もあります。
冒頭で挙げた「イカ、タコ、エビ、貝類」は、最近ではコレステロール値を下げるという説の方が主流になっています。また、これらに含まれるタウリンの健康効果も無視できません。卵は8種類の必須アミノ酸を含んでいるほか、卵黄に含まれるレシチンには血管を強くしたり、血中の余分なコレステロールの沈着を防いだりする作用があるといわれています。
要するに、せっかくのごちそうである「卵がタップリ使われた“ふわとろ”のオムライス」や「イカやエビがふんだんに盛られた海鮮丼」を我慢する必要はない、ということです。

健康な人の場合はコレステロールの摂取量を気にしなくていい、というのが「日本人の食事摂取基準(2015年版)」の趣旨ですが、高LDLコレステロール血症患者の場合に当てはまるわけではない、と日本動脈硬化学会は指摘しています。厚生労働省もLDLコレステロール値が高い状態を危険視しているのは同様です。
ということは、高LDLコレステロール血症と診断されてはいなくてもLDLコレステロール値が上限に近い人はどうなのでしょうか。やはり暴飲暴食を控える、運動不足を解消するなど、トータルでの生活習慣の改善が必要と考えるのが正しいようです。

具体的なポイントは、
・アルコールや糖質の摂り過ぎを抑える
・食べ過ぎを控え、バランスのとれた食生活を実践する
・1日9000~1万歩程度のウォーキングなど、適度な運動を行う
・体重を適正に保つ
といった点に気をつけることが重要です。「お腹いっぱいで幸せ」という状態は健康にとっては不幸せな状態かもしれませんし、「スイーツは別腹」という言葉は封印したほうが無難でしょう。体重に関しては、毎日同じ時間に量って推移をチェックするだけでも効果があります。体重体組成計では体脂肪レベルを確認できる機種がありますので、併せて参考にするといいのではないでしょうか。

※日本食品標準成分表2010(文部科学省)