糖尿病の漢方薬

 

糖尿病の漢方薬

更新日:2016/12/09

糖尿病の治療と検査

糖尿病は、体内のインスリンの作り方や使い方に問題がおきて、摂取した食物エネルギーを正常に代謝できなくなる病気です。糖尿病の漢方薬について、栄養学と漢方医学の専門医師の監修の記事で解説します。

漢方の世界では「糖尿病」という概念はありません。しかし、昔からいわれている、口の渇き、多尿、四肢のしびれに加え、重症例で見られる体重減少などを改善するときに、漢方薬が用いられてきました。

漢方での糖尿病の考え方

漢方薬は、一剤でさまざまな効能や効果を持っているため、幅広い症状に対応できます。

糖尿病で血糖値が高いと血液粘度が増し、脳梗塞や虚血性心疾患の合併も増えます。血液粘度の増加や血栓症の場合、漢方では「瘀血(おけつ)」と定義されます。

多飲・多尿・夜間頻尿・下肢のしびれなどは、「腎虚(じんきょ)」と定義されることも多く、気がスムーズに流れない「気滞(きたい)」、体液の分布がアンバランスで滞っている「水滞(すいたい)」などの原因が多岐に渡ります。その点でも、漢方薬で改善される可能性は高いといわれています。

糖尿病にともなう、口の渇き、多尿、多汗、神経症状など多方向からのアプローチが可能です。症状に合わせて漢方薬が選択されています。

具体的には、高血糖に対しては、肥満の自覚症状がある場合、合併症に対しての治療が考えられます。高血糖に対しては、漢方薬のみでの血糖降下作用は十分ではありません。西洋医学的な薬の対象にならない軽度の症状に対して使用します。

血糖値の上昇または糖尿病の進行にともなう、口の渇き・多飲・多尿や全身のだるさや疲れやすさなどの症状に対して使用します。

肥満をともなう処方は、抗肥満作用やコレステロールや血糖値の低下を期待して使用します。糖尿病神経障害、糖尿病網膜症、糖尿病腎症などの合併症に対しても使用するケースが多いです。

糖尿病の合併症の原因である「微小循環障害」(毛細血管が働かず、細胞に栄養がいかなくなった状態)は、漢方医学的には「瘀血(おけつ)」ととらえられ、血流を改善する駆瘀血剤(くおけつざい)を使用します。

糖尿病の漢方薬

大柴胡湯(だいさいことう)

体力のある人に使用します。胸脇苦満(きょうきょうくまん:胸からわきにかけて重苦しく張っているような状態)や心下痞鞭(しんかひこう:みぞおちがつかえて硬いこと)が認められて、便秘、口の苦さ、耳鳴、肩こりがある場合に使用します。特に、大黄(だいおう)は緩下作用や抗炎症作用を持っているため、胸脇苦満や炎症を抑えることができます。

白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)

体力のある人に使用します。構成生薬の石膏(せっこう)と知母(ちも)で全身の熱を冷まし、口の渇きを改善させ、人参や粳米(こうべい)で体力を回復させる作用があります。ほてりや多尿、多汗、熱症や乾燥に使用します。便秘がない場合に使用することが多いです。

防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)

体力のある人に使用します。麻黄(まおう)や石膏(せっこう)などを中心に、多くの生薬が配合されています。発汗、清熱(せいねつ:体内に停留している余分な熱を冷ますこと)、便秘改善、利水(りすい:体内の水の分布状態を正常にすること)、血行促進などの効果を含み、代謝や排便を促し、肥満体質を改善します。

便秘、顔面紅潮、肥満、充血、ほてりなどの症状がある、いわゆる「太鼓腹」の人に使用します。メタボリック症候群に適するといわれています。

八味地黄丸(はちみじおうがん)

体力は普通か虚弱な人に使用します。特に、高齢者によく使用されます。胃腸機能が健全で、腰部および下肢の脱力感、冷え、しびれ、頻尿があることを目安に使用します。

六味丸(ろくみがん)

比較的体力のない人に使用します。上記の八味地黄丸から桂皮(けいひ)と附子(ぶし)を除いたものです。冷えがなく、口の渇きがある場合に使用します。腰部および下肢の脱力感、しびれや耳鳴、めまい、ふらつきなどの有無が、使用するポイントです。

牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)

八味地黄丸に利尿作用のある牛膝(ごしつ)と車前子(しゃぜんし)という生薬を加え、しびれや痛み、尿量減少やむくみが強く、胃腸機能が正常な場合に使用します。

桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)

比較的体力のない人に使用します。桂枝湯(けいしとう)をベースに、水滞(すいたい:体液の分布がアンバランスで滞っている状態)を改善する朮(じゅつ)と体を温める作用の附子(ぶし)を加えた漢方薬です。寒がり、四肢関節の痛みや腫れなどがある場合に使用します。

十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)

体力のない人に使用します。四物湯(しもつとう:血分を補う漢方薬)と四君子湯(しくんしとう:気を補う漢方薬)を合わせ、黄耆(おうぎ)・桂皮(けいひ)を足し、生姜(しょうきょう)・大棗(たいそう)を除いた漢方薬です。病後や術後、慢性疾患などからくる疲労衰弱、全身倦怠感、気力低下、顔色不良などがある場合に使用します。

柴苓湯(さいれいとう)

急性・慢性の下痢で、体力は普通の人に使用します。小柴胡湯(しょうさいことう)と五苓散(ごれいさん)を合わせたもので、水分代謝異常をともなう免疫系の病気やステロイド剤の副作用軽減などを目的に、広く使われています。

胸脇苦満(きょうきょうくまん:胸からわきにかけて重苦しく張っているような状態)があり、尿量減少、むくみなどの症状をともなう場合に使用します。

清心蓮子飲(せいしんれんしいん)

比較的体力のない人に使用します。水の偏りを治す茯苓(ぶくりょう)、消炎・利尿作用のある車前子(しゃぜんし)に、胃腸虚弱・虚弱体質の人にも使用できるよう人参(にんじん)や黄耆(おうぎ)などが配合されたものです。

上記の八味地黄丸などの地黄が配合されている漢方薬では、胃腸に負担がかかるケースもあるため、胃腸虚弱の方にも使用できる漢方薬です。

慢性的に排尿困難、残尿感、排尿痛、頻尿を訴え、口が渇き、神経不安をともなう場合に使用します。

最後に

糖尿病の治療は、まず食事療法と運動療法、そして、必要に応じて現代医薬で血糖を適切にコントロールすることが基本です。漢方薬は、血糖値を安定化する作用は穏やかですので、どちらかというと、自覚症状の緩和や合併症の予防のために補助的に用いられています。このような治療法を理解して、専門医のもとで服用するとよいでしょう。

コメントを残すにはログインしてください。