【2014/08/12 しらねのぞるば
メディカル朝日 2014年8月号
雑誌:メディカル朝日の2014年8月号を読んでいたら,興味深い記事を見つけました.
◇血中ケトン体濃度が上昇する.
◇尿にケトン体が出る.
◇肝臓糖新生が亢進(注1)して肝中グリコーゲンが枯渇する.
その結果;
◇サルコペニアが懸念される
◇ケトアシドーシスの可能性がある.
これ,糖質制限食について書かれたのではありません. これはメディカル朝日の2014年8月号P.30に掲載されていた,『SGLT2阻害薬と食事療法』という記事の中で,SGLT2阻害薬により発生する問題点として挙げられていることです.
(注1) SGLT2阻害薬は肝臓の糖新生を亢進させる
J. Clin. Invest. Vol.124(2), 509-514, 2014
日本糖尿病学会は,上記とまったく同じ理由をあげて,これまでさんざん糖質制限食は危険だとあげつらっておきながら,SGLT2阻害薬については,夢のような糖尿病新薬だともてはやしてきました(注2).
(注2)日経メディカル 2014年3月号 p.53
『新しい作用機序を持つSGLT2阻害薬の登場で(血糖値コントロールの)目標達成率がより高まり,将来糖尿病合併症に悩む患者が少しでも減ることを期待している』
東大病院 門脇院長 談;
同じ現象が発生するのに,一方で糖質制限食は危険と言い,他方でSGLT2阻害薬の方は『有望な糖尿病治療手段』と持ち上げるのは,矛盾しています.
しかも傑作なのは,この記事の趣旨がまったく曖昧な点です.この『SGLT2阻害薬と食事療法』という記事を何度も読み返しましたが,結論らしきものは見当たらず,要するに何を言いたいのかさっぱりわからないのです.
同誌の別の箇所(p.25)には,『SGLT2阻害薬を服用すると,1日あたりおよそ400kcalのエネルギーに相当する糖質が尿から排泄される』とあります.
そこで1600kcal(内 糖質は60%=960kcal)のいわゆる『カロリー制限食』を摂っていると,ただでさえ,ギリギリの最低カロリーに設定されているのに,更に400kcalほどカロリー摂取不足になります.この不足分を何によってどれくらい補うべきなのか,この記事では一切触れていないのです.
記事中では,『SGLT2阻害薬により糖排泄を促進する一方で,糖質摂取量を増加するような食事療法は,糖尿病治療として本末転倒である』とも書かれています(p.31).
つまり,不足するカロリーを糖質で補ってはいけないと述べています.
ところがこの記事では続けて,『SGLT2阻害薬服用患者が糖質制限食を行った場合には,絶対的な糖不足に陥る』とあり,つまりは糖質はふやしてはならないが,なおかつ脂質も蛋白質も増やしてはいけないというわけです.
ならば,いったいこのカロリー不足をどうせよというのでしょうか?
この記事ではその点は,最後に『現時点ではSGLT2阻害薬に対する適切な食事療法は明らかでない』と結論不明にしています.察するに,今まで『高蛋白・高脂質の糖質制限は危険』と言い続けてきた手前,自縄自縛に陥っているのでしょう.
適切な食事療法が定まらないのなら,SGLT2阻害薬を患者に処方した医師は,食事について何も注意喚起しなくてもいいのでしょうか? 管理栄養士は,これまで通りの『高糖質 糖尿病標準食』をそのまま続けろと言っていいものでしょうか? この記事を読んだ患者はいったい何をどうしたらいいのでしょうか?
たしかにBMIが30を超えるような超肥満の患者なら,それで急速に痩せられるかもしれませんが,1,600kcalのカロリー制限食でさえ辛いと思っている人が,更に400kcalのカロリー切り捨てに耐えられるでしょうか?以前NHKで放映された人のように,フラフラになって階段も登れなくなるでしょう.果たしてそれが『有望な糖尿病治療手段』といえるでしょうか?
結局,高糖質・カロリー制限食を指示されている患者に,SGLT2阻害薬が投与されたら,400kcal分の糖質が摂取されなかったのと同じですから,つまりはそれは【圧倒的にカロリー不足,かつ中途半端な糖質制限食】になってしまいます(注3). であるなら,最初から【適切なカロリーでの糖質制限食】の方がよほど安全です.少なくとも糖質制限食は,尿路・性器感染症は起こしたりしませんからね.
(注3)
1600kcalのカロリー制限食が,糖尿病学会の奨める『適正カロリー比』だとした場合;
炭水化物: 60% = 960kcal
脂質:20% = 320kcal
蛋白質:20% = 320kcal
合計 1,600kcal
この食事をしている患者が,SGLT2阻害薬を服用して400kcalの糖質が排泄されると;
炭水化物: 960kcal – 400kcal = 560Kcal ← 47%
脂質: 320kcal ← 27%
蛋白質:: 320kcal ← 27%
合計: 1,200kcal
つまり,炭水化物が50%未満になるので,『50~60%の炭水化物が適正』とする糖尿病学会のガイドラインから外れてしまいます.】